旅行先で、地域のお祭りに遭遇することがあります。なかには京都の祇園祭や青森のねぶた祭のように全国的に知られ、祭を見るために観光客が多く訪れるケースも。観光をする際、旅先の祭りに合わせてスケジュールを組むという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
祭りには近年になってできたものもあれば、古くから脈々と続く伝統的なものもあります。祇園祭やねぶた祭は伝統的な祭りの代表とも言えるでしょう。
沖縄にも伝統的な祭りが数多くあり、有名なものや地域限定のものなど、規模や内容はさまざまです。八重山列島の「西表島」も同様に、古くから伝わる祭りがあります。そこで今回は西表島の「節祭(しち)」にスポットを当ててご紹介します。
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西表島の節祭を見ていく前に、まずは「節祭」とはどんなものなのか簡単にご紹介いたします。「節祭」は季節の節目などを表し、豊作や豊穣などを祈る行事のこと。「シチィ」「シィチィ」とも呼ばれ、八重山地域をはじめ沖縄各地で見られる祭りです。
実際にインターネットで「節祭」と検索をすると、西表島の節祭についてのホームページなどが上位に表示されます。西表島の節祭は観光客も見学でき、八重山の節祭のなかでもよく知られているものと言えるでしょう。
西表島においても節祭は古くから伝わり、「祖納(そない)」地区と「干立(ほしだて)」地区にて開催されます。西表島を支えてきた大切な行事「節祭」とは、一体どんなものなのでしょうか。
※画像は「ハーリー」のイメージです
西表島の節祭は、国の「重要無形文化財」にも指定されている伝統的な行事。祭りの時期は、旧暦の10月ごろ。己亥(つちのとい)から3日間に渡って実施されます。およそ500年前に伝わり、健康や繁栄、五穀豊穣などを祈る豊年祈願として長く続けられている祭りです。
節祭の一日目は料理の準備や家庭の行事、リハーサルなどがおこなわれます。二日目には「ミリク行列(ミルクとも)」や「世乞い(ゆーくい)」と呼ばれる神事をおこない、芸能を神様に奉納するほか、「ハーリー競漕」も実施。神様を迎えます。三日目は大平井戸での水恩感謝の行事、集落内における清めの儀式などを実施。こうして三日間の祭りが終わります。
ハーリー競漕とは、14世紀に中国から伝わったという説がある行事で、竜の頭と尾を持つ爬竜船で競い合い、豊漁や海の安全を祈願するものです。本来は旧暦の5月4日に沖縄各地で実施されますが、西表島では節祭にも開催し、五穀豊穣が海からもたらされることを表しています。
宮古島の「パーントゥ」においては独特の仮面と装束に身を纏ったパーントゥが祭りの中心を担いますが、西表島の節祭では「ミリク様」という神様に扮した存在が祭りの中心にいます。
ミリク様は「ミルク様」「弥勒様」ともされ、穏やかな笑顔を称えた仮面と、黄色い装束を身に纏っています。このミリク様に分することができるは、49歳の男性のみ。当日は長い時間、ミリク様として儀式を全うします。
またミリク様以外にも、特徴的な存在が登場。祖納の節祭では、「フダチミ」という全身黒装束の女性も登場。フダチミには異国にさらわれた少女が帰島した際に村人と顔を合わさないように顔を隠したという説など、諸説あります。
また干立の節祭では鼻が高い仮面を被ってブーツを履いた「オホホ」が登場。札束を見せびらかし、奇声とともに不思議な動きを展開。その見た目はかなり特徴的で、島に流れ着いた外国人がモデルという説もあるのだそう。西表島や周辺の八重山の島々では、中国をはじめとした外国との伝説や歴史が多くありますが、この「オホホ」もそのひとつと言えるのでしょう。
祭り当日には、島外からも西表島出身者が多く集まり、西表島の伝統行事を支え、盛り上げ、受け継いでいます。ここまで500年、おそらくはこれから500年、この伝統的な祭りが西表島で受け継がれていくのではないでしょうか。