以前「バリ・ヒンドゥー教とは?バリ島の神々を知ろう!」において、バリ島の神々についてご紹介しました。バリ島には神々以外にも、さまざまな異形の存在があります。今回はそのなかから、聖獣「バロン」と魔女「ランダ」についてご紹介します。
災いを防ぐ力を持ち、時に「バナスパティ・ラージャ(森の王)」と称されることもある、バリ島の聖獣「バロン」。その出で立ちは獅子に似た姿で、善の象徴ともされています。最初から聖獣だったわけではなく、元は猛獣や害獣とされる類だったとも。それがいつしか人々を守護する立場の聖獣となり、ランダとの終わりなき戦いを続けることになったのです。
そのバロンの対となる存在が、悪の象徴とされる魔女「ランダ」。バロンとランダは対になっていることはもちろんですが、永遠に戦い続けるという双方の関係性も含め、それぞれ単独で語られることは少ないと言えるでしょう。
バリ島の魔女「ランダ」は非常に興味深い存在です。バリ・ヒンドゥー教の神々のなかにはヒンドゥー教やインド仏教などに登場する神々がいますが、実はランダもそういった側面を持っているんですよ。
悪霊や魔女たちを統べる魔女「ランダ」は、災いを防ぐ力を持つランダとは対照的に、災いをもたらす力を持ちます。バリ・ヒンドゥー教によるシヴァ神の妻の化身とも言われています。また、ワルマデワ王朝四代目の妻であるとも。
名前は「未亡人」「寡婦」を意味し、長くたれ下がった舌や乳房、やせ細った体や牙などが特徴的な老婆です。ランダは、子どもを食べる魔女として恐れられていますが、いっぽうでは授乳する姿のランダ像も存在するなど、二面性が見られます。
「子どもを食べる」「子どもに乳を与える」、この二面性で思い浮かぶ神がいるのではないでしょうか。それは日本でもよく知られている「鬼子母神」です。ランダと同一視されることが多く、つまりバリ島では鬼子母神がランダに変化したということに。
数多くの子を持ち、子どもを育てるために人間の子どもを食らった鬼子母神は、やがて釈迦による試練を乗り越え、安産と子どもの守護神になります。ランダはバロンとの戦いを続けていますが、いつか良心に目覚めることがあれば治癒の力を身につけるとされています。悪鬼ともされる存在から癒やしの存在になる様子は、鬼子母神に通じるものがあるのではないでしょうか。
今回、聖獣「バロン」と魔女「ランダ」についてご紹介しましたが、ランダは鬼子母神と同一視されるなど、遠い異国の伝承でありながらも日本でもよく知られている存在に辿り着きます。バリ島の神話や伝承は、ヒンドゥー教やインド仏教がミックスされているため、仏教が伝来している日本にとっては、馴染み深い神々も少なくありません。
バリ島を訪れた際には、寺院などで神々に触れる機会があることと思います。現地での伝承や神話などに注目し、日本でも知られている存在を見つけてみてはいかがでしょうか。